【リウマチと痛みの専門家として】鍼灸学校で特別講義を担当しました

ある鍼灸専門学校から特別講師としての依頼を受け、「リウマチと痛みの鍼灸治療」について講義を担当しました。
テーマは、まさに私が長年向き合ってきた分野であり、今回の講義では臨床で直面するリアルな事例を交えながら、現場で使える知識と視点を共有してきました。

私自身、鍼灸師としての修行を始めて27年。鍼灸整骨院、病院勤務、そして自院での多くのリウマチ患者との出会いを経て、「痛みとは何か?」「人はなぜ治らないのか?」という深い問いに向き合い続けてきました。
今回の講義では、その蓄積を、これから臨床に飛び込む学生たちに伝える貴重な機会となりました。


目次

鍼灸の専門学校も時代とともに変化している

今回お声がけいただいた学校は、美容鍼灸を柱にカリキュラムを組んでいる、比較的新しいスタイルの鍼灸専門学校です。
今や、全国で鍼灸の養成学校はかつての10倍以上。かつては入学自体が狭き門でしたが、現在は入学のハードルも下がり、より多様なバックグラウンドを持つ方々が学んでいます。

その分、学校側も差別化のために「美容」や「エステ」といったニッチ戦略を打ち出すようになり、確かに美容鍼は人気があります。
しかし、学校としては「鍼灸=美容」だけに偏らず、本来の医療としての鍼灸の力も伝えたいとの思いがあるとのことでした。

その流れの中で、**女性に多い疾患である「リウマチ」や「慢性的な痛み」**へのアプローチに関する講義を希望され、リウマチ治療を専門とする私に声がかかったというわけです。


「痛みとは何か?」——臨床現場から伝えたい本質

講義を受け持ったのは3年生。国家試験前の緊張感ある時期で、気持ちが焦っている学生もいたと思います。

今回、私がもっとも伝えたかったのは、「痛みとは何か?」という根本的な問いです。
単なる症状の説明やツボの話だけでなく、臨床の場で非常によく遭遇する、**「痛みが治らない理由」**について掘り下げました。

中でも注目してもらいたかったのが、「治りたくない人がいる」という現象。
驚かれるかもしれませんが、これは実際に多くの臨床現場で起きていることです。


「治りたくない人」の存在とオペラント学習

例えば、ある患者さんが長年の痛みを抱えていたとします。
その痛みによって、家族が優しくしてくれたり、職場で配慮してもらえたり、周囲から“心配”という愛情を受けるようになることがあります。

そんな患者さんが、ある時ふとこう言います。

「痛みがなくなったら、みんな私を気にかけてくれなくなる気がするんです。」

これは心理学でいう「オペラント学習」の一種で、痛みが“報酬”として無意識に維持されてしまう状態です。
つまり、痛みがあることで“得られているもの”がある場合、人は無意識のうちにその痛みを手放せなくなってしまうのです。

このようなケースに気づかず、ただ施術を繰り返しても、結果はなかなか出ません。
痛みの背景にある心理的要因や生活環境を読み取る視点が、治療家には求められます。

この話は、学生にとって少し難しかったかもしれませんが、現場で必ず役立つ視点だと信じています。


コロナ以降の変化と学生の現状

コロナ禍の影響もあり、近年は鍼灸院での臨床実習が大幅に制限され、実際の現場に触れた経験が乏しい学生も多いと聞きました。
実際、学生の多くは飲食業などでアルバイトをしており、かつてのように「治療院で修行しながら学ぶ」という姿勢は希薄になっているようです。

私が学生だった頃は、学校が終わればそのまま治療院で助手をし、先輩の背中を見て技術や接遇を学んでいました。
それが当たり前だった時代からすれば、今の学生の現場経験の少なさには少し不安を感じるところもあります。


次回は実技指導へ。現場で役立つ視点を伝えたい

来週は、いよいよ実技講義を行います。
国家試験のための知識だけではなく、現場で本当に必要なこと・すぐに役立つことを伝えたいと思っています。

リウマチ患者に対する鍼灸治療では、単に「ツボに鍼を刺す」だけでなく、全身状態の把握、薬との併用、患者心理の理解など、総合的な判断が必要です。

私が27年間の臨床で学んできた「生きた知識」を、少しでも未来の鍼灸師たちに届けられたら嬉しいです。


まとめ:リウマチ治療は、技術だけではなく「人間力」も問われる

リウマチ治療においては、技術や理論はもちろん大切ですが、「人を診る力」=人間力も同じくらい重要です。

痛みの裏にある感情や環境、そして“治らない理由”に目を向ける。
これは、単なる医療技術者ではなく、「治療家」としての成長に欠かせない視点です。

これからも、鍼灸という伝統医療が現代においても信頼され、実践され続けるために、私自身も学び続け、伝え続けていきたいと思っています。

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この記事を書いた人

学生時代から京都、大阪の鍼灸整骨院にて4年間修行。
医療法人孝至会みのりクリニック内の東洋医学・リハビリ科にて10年間勤務。医師と協力して延べ3万人に鍼灸施術を行う。
主任を経て大阪府江坂駅前にて鍼灸治療院を開院。

【資格】
・国家資格 (はり師・きゅう師)
・「機能再生士」認定
・日本メンタルヘルス協会
認定基礎心理カウンセラー取得
・日本メンタルヘルス協会
公認心理カウンセラー資格取得

【所属団体】
・一般社団法人 全国鍼灸マッサージ協会 会員

【講演活動】

2015年 関西医療大学にて『「関節リウマチに対する鍼灸治療~メカニズムとエビデンス』講演 
(東京大学医学付属病院リハビリテーション部鍼灸部門主任の粕谷先生と合同)
2015年 明治東洋医学院にて『薬を否定せずに行うリウマチ鍼灸』講演
2017年 平成医療学園にて現場力ステップセミナー主催 『関節リウマチ臨床鍼灸』講演
2017年 (一社)日本生殖鍼灸標準化機関(JISRAM)にて『リウマチについて』講義2021年大阪医療技術学園 痛みの鍼灸 授業・実技を担当

2014年~ 一般向け講座『痛み・リウマチ克服セミナー』主催

【掲載】
2015年 医道の日本誌 専門鍼灸記事 掲載
2015年 明治東洋医学院 入学パンフレット 活躍するOB 取材
2016年 医道の日本誌4月号『関節リウマチ鍼灸』論文掲載

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