痛みは「悪者」ではない
―身体・感情・自律神経をひとつの構造として読み解く―
痛みがあると、私たちはまず
「この痛みを消したい」
「早く治したい」
と考えます。
それはとても自然な反応です。
しかし、痛みの臨床に長く関わっていると、次第にある疑問が浮かんできます。
なぜ、同じような状態でも痛みの強さは人によって違うのか。
なぜ、検査では異常がないのに痛みが続く人がいるのか。
こうした問いに答えるには、
痛みを単なる「症状」として見るだけでは足りません。
痛みを「部分」ではなく「枠組み」で考える
多くの場合、痛みは
「肩が痛い」「腰が痛い」「関節が痛い」
というように、場所で語られます。
しかし実際には、痛みはその部位だけで完結している現象ではありません。
人の身体は、
- 神経
- 筋肉
- 内臓
- 血流
- 自律神経
- 感情
- 思考
- 生活習慣
これらが重なり合いながら働いています。
痛みは、こうした要素同士の関係の乱れが、
一つの形として表に出たものとも言えます。
痛みは「身体からの情報」である
痛みは不快で、つらく、避けたいものです。
しかし別の見方をすると、痛みは
「今の状態は無理がかかっていますよ」
「このままでは負担が続いていますよ」
という、身体からの非常に正直なメッセージでもあります。
- 休めていない
- 緊張が抜けない
- 不安や恐れが続いている
- 気持ちを抑え込みすぎている
こうした状態が長く続くと、神経系は過敏になり、
刺激に対して「痛み」として反応しやすくなります。
感情と痛みは切り離せない
慢性的な痛みを抱える方ほど、
「気持ちの問題じゃない」
「精神的な話にされるのが嫌だ」
と感じておられます。
それは当然です。
痛みは現実であり、決して想像ではありません。
ただし、ここで言う「感情」とは、
我慢が足りないとか、考え方の問題という話ではありません。
不安・恐れ・怒り・悲しみといった感情は、
自律神経や脳の働きを通じて、痛みの感じ方そのものに影響します。
感情を無視することは、
身体の状態を無視することと同じです。
なぜ痛みは長引くのか
急性の痛みは、ケガや炎症が治まれば自然に軽くなります。
問題になるのは、
- 数か月、数年続く痛み
- 原因がはっきりしない痛み
- 治療を受けても戻ってくる痛み
こうした慢性的な痛みです。
この段階では、
「どこが悪いか」だけでなく、
神経の興奮状態そのものが関わっていることが少なくありません。
身体が常に「警戒モード」になり、
本来なら痛みとして感じない刺激にも反応してしまう状態です。
鍼灸が「痛みの枠組み」に向いている理由
鍼灸は、痛い場所だけを治す治療ではありません。
- 自律神経の調整
- 筋肉の緊張緩和
- 血流の改善
- 呼吸の深さ
- 身体全体の感覚入力
こうした要素を同時に整えていきます。
その結果、
「痛みを感じやすい状態」そのものが変わっていくことがあります。
これは、
部分ではなく全体のバランスを整えるアプローチです。
痛みを消すより、痛みが生まれにくい状態へ
大切なのは、
痛みを力づくで消そうとすることではありません。
- 緊張が抜ける
- 呼吸が深くなる
- 身体感覚が戻る
- 安心できる時間が増える
こうした変化が積み重なることで、
結果として痛みが和らいでいくケースは少なくありません。
治療とは「身体を読み解く作業」
痛みの治療は、
「正解のツボを当てること」ではありません。
今の身体が、
どんな状態で、
何を伝えようとしているのか。
それを一緒に確認し、
調整し直していく過程そのものが治療です。
まとめ:痛みは敵ではない
痛みはつらいものです。
しかし、痛みそのものが敵なのではありません。
敵に見えているのは、
これまで見落とされてきた身体の声かもしれません。
身体・感情・自律神経を
ひとつの枠組みとして捉え直すこと。
そこから、
「なぜこの痛みが続いているのか」
という問いへの答えが、少しずつ見えてきます。
